「旧い友人が新たに大臣になつたといふ知らせを読みながら」
           
                                          河上肇

  私は牢の中で

  便器に腰かけて

  麦飯を食ふ。

  別にひとを羨むでもなく

  また自分をかなしむでもなしに。

  勿論こゝからは

  一日も早く出たいが、

  しかし私の生涯は

  外にゐる旧友の誰のとも

  取り替へたいとは思はない。




◆人生に分岐点は無数にある。
 やっぱり彼と同じメニューにしとけばよかった、向こうの方が美味しそう。というものから、
 あの「お別れ」のときに、父ではなく母の方についていっていたら。
 最初に痛みが出た時に、病院に行って検査していたら。
 やっぱり向こうの学校に行っていたら。
 あのとき躊躇わずに、売りに出しておけば。
 意地を張らずにプロポーズを受けておけば。 

 もしも良い加減で妥協していたら。或いはしていなかったら。
 あのとき見切りをつけておけば。或いはもう少し続けていたら。
 
 戻れない選択があります。しかし取り返せないわけではない。
 ひと1人の力ではどうにもならないことがあります。しかし自分というものはまだここで確かに生きている。
 
 そのとき、そのときで、己が正しいと思った選択が重なって、人生をつくっています。それが想像だにせぬ結果を招いたとき、「この全てが夢だったら」「目が覚めてあの日に戻っていたら」と、思わぬと言ったら嘘になる。
 しかしひたすら、目の前の「現実」を、いま己が置かれている状況を、過酷なまでに直視し続けることでしか進めない道もあります。

 「それでも、それでもこの人生は私のものだ」
 「天国旅行の切符とだって、取り替えてなどやるものか」




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